以前から興味があった有機農業における土作りの理論「BLOF理論」について掲載してあるブログを見つけました。
BLOF理論は Bio Logical Farming の略で生態系 調和型 農業理論のこと。
提唱者は日本有機農業普及協会代表の小祝政明先生。
土壌の物理性、化学性、生物性すべてをシステマティックに、高度にチューニングできる、優れた理論だと思います。
備忘録として引用・転記します。
BLOF理論の解説
BLOF理論は Bio Logical Farming の略で生態系調和型農業理論のことである。
提唱者は日本有機農業普及協会代表の小祝政明先生である。
この理論は有機栽培における肥料を3つのカテゴリーに分けて、それぞれの植物生理に対する役割を科学的に明確にし、施肥量と施肥方法を論理的に決定していく作物栽培方法である。
■BLOF理論の設計図
●3つのカテゴリーとは:
①ミネラル肥料(窒素と炭水化物以外の必須栄養素、リン酸、硫黄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、塩素、亜鉛、ホウ素、モリブデン、ナトリウム、ケイ酸など)
②アミノ酸肥料(炭水化物付きの窒素肥料)
③堆肥(土壌を団粒化させる中塾堆肥)
そして、この3つのカテゴリーの肥料を使いこなす技術
①ミネラル肥料→土壌分析・施肥設計技術
②アミノ酸肥料→微生物を活用した発行液肥の製造技術
③堆肥→堆肥の製造技術・太陽熱養生処理技術・微生物を活用した抑制技術
(1)肥料は「お礼肥え」を旨とする。
■写真は小祝政明先生が校長を務められる徳島県にある小松島有機農業サポートセンターの農家さんを対象とした勉強会のようす。実際にBLOF理論で つくった野菜をもってきてもらい生育診断をしている。理論に基づいて作った野菜は検証がしやすい。どこが良くて、どこがダメだったのかがわかりやすいの で、軌道修正の仕方が明確で、ゆえに上達する速度が速い。先生いわく、野菜の姿に、施肥の仕方が表現されているという。
現在の農業生産は、肥料の力で生産するという農業になってきている。特に日本の農業は、効率がよく、単位面積あたりの収穫量が多く、品質もよい。この精密で精度の高い農業は、肥料の技術によるところが大きい。
自然の山の森や草原からは、持ち出しが少ないが、田畑は、そこから作物を収穫し出荷するという形で、作物が集めた土壌の栄養成分を、作物体としてどんどん持ち出してしまう。
たくさん収穫できたということはたくさん収奪したということを意味している。
田畑を持続的に、そこで耕作し続けるためには、野菜や穀類として田畑の外へ持ち出してしまった土壌栄養成分を肥料として戻してやる必要がある。よって肥料を入れる量は、持ち出した量だけでよく、それは作物を収穫して持ち出したときにわかる。
施肥は、大地のめぐみに感謝し、大地から収奪した分だけを戻せばよい。よって施肥は、これからつくるぞと施肥するのではなく、収穫後に「お礼肥え」として施すのがよい。
(2)ミネラル肥料の必要性
ミネラルは生きものの代謝と深く関わっている。異化と同化。2つをあわせて 代謝。異化とは、有機物を吸収し炭水化物(糖)を水と炭酸ガスに分解する過程で生きていくために必要なエネルギーを得ること。同化とは、異化によって得た エネルギーをつかって、外部から吸収することで得たアミノ酸等を材料にタンパク質である自分の体をつくっていくこと。代謝は生きているということの基本メ カニズムであり、この代謝を行っているは酵素であり、酵素自体はタンパク質なのだが、酵素は多様なミネラルを触媒として異化と同化をおこなっている。
ミネラルがないと酵素は正常に働けなくなり、生命活動に影響が出ることもある。
植物は光合成を行うことで、生きていくために必要なエネルギーの源である炭水化物とビタミンを自分でつくり出すことができる。
光合成を行う葉緑体の中のさまざまな酵素は、いくつものミネラルを必要とする。光を受け止める部分はマグネシウム。葉緑素は光を電気に変えて、水を 電気分解して水素と酸素を取り出している。水を電気分解する電極はマンガン。取り出した水素原子をつかってアデノシン3リン酸にエネルギーを充填してい る。また光から変換された電子は酵素の中の鉄イオン、銅イオンによって中継され、電子の運び屋NADPに乗せられて、炭酸ガスと水の化合物である炭水化物 にエネルギーを注ぎ込むときに使われる。
■図は「ドメネックの樽」
農文協発行『農学基礎セミナー新版農業の基礎』2009年(第8刷)生井兵治・相馬暁・上松信義 編著 35pより
ド イツのリービッヒは「ドメネックの樽」というたとえを用いて、最大収量は複数ある必須条件のうち、その一番少ないものの最大量によって決まるという考えを 説明した。つまり、樽に溜めることができる水の最大量が最大収量。樽を構成している木の部材のひとつひとつが必須条件であり、樽の水の量は、一番短い部材 のところから漏れ落ちるので、この一番短い部材が樽に溜めることができる水の最大量を決める。
日射量が少ないのは天災であるが、マグネシウムが欠乏して収量が上がらないのは、施肥をしなかったので、人災といえるかもしれない。
■ドメネックの樽の右のグラフは、収量を増やしたいと考えるとき、まず行うことは土壌分析、そして施肥改善。施肥した肥料をきちんと根が吸収してくれるように堆肥を施用しえて土壌改善をする。
これはすべての農業の基礎である。
(3)まずは土のミネラルの現状値を調べる
冨士平工業製の簡易土壌養分検定器ドクターソイルを使って、土壌のミネラル成分の量を調べる。測定結果は10aあたり○㎏含有していると示される。
●ドクターソイルの利点
①体積法である。
多くの土壌分析装置は乾土の重量法である。有機栽培では堆肥を使う。堆肥を使うと土はフカ フカになって軽くなってしまう。フカフカの土とカチカチの土を同じ100g調べたら、フカフカの土の方がカチカチの土より体積が多くなる。根の入る範囲は 体積の方が正確に測れる。重さだと土の質によって体積が多くなったり、少なかったりして正確ではない。フカフカの土を重量法で測定したら、体積が多いの で、実際は足りていないのに足りているという結果になったり、適正であるのに過剰であるとなったりする。
②pH=4.7の酢酸で土を溶かす。
多くの土壌分析装置は塩酸や硫酸など強い酸で土に含まれているすべてのミネラルを溶かし出してしまう。 pH=4.7は植物の根がミネラルを溶かすために出す酸(根酸)と同じ酸度で、pH=4.7で溶かすと、ちょうど植物が吸収できる範囲のミネラルが溶けだ すので、農業に利用しやすい。
③生産農家さんでも使用できる。
キット自体の価格は6万程度。使い方を覚えたら、農家さんが自ら自分の耕作している田畑の土を調べることができる。
(4)施肥設計とは
ドクターソイルで調べた測定値は株式会社ジャパンバイオファーム社製の施肥設計ソフトに入力する。この施肥設計ソフトはジャパンバイオファーム社に登録すれば、メールで送ってくれる。エクセルが動く環境があれば使用できる。
■写真は施肥設計ソフトの使い方講習会の様子。
施肥設計ソフトの仕組みはpHとカルシウム・マグネシウム・カリウムの値を入力すると、pHとアルカリ3種の総量の相関関係からCEC(陽イオン置 換容量)を自動計算してくれる。さらに、このCECの値から計算された各ミネラルの飽和上限値と吸収限界の下限値が表示される。CECはその土壌にどれだ けの肥料成分を入れることができるかの目安。痩せた土は少しの肥料で飽和し、肥えた土はたくさんの肥料を入れても飽和しないこともある。
自然界では、ミネラルが不足しているということは少ない。人間が関与して作物をつくって持ち出すこと。収奪することによって不足や欠乏が生じる。よって施肥量は上限値を参考に、上限値いっぱいまで施肥してもよい。
ち なみに2012年、2013年と2年連続で徳島県小松島市で開催されたオーガニックフェスタでは、土壌分析・施肥設計技術を導入し、ミネラルを上限値まで 施肥して栽培された葉物野菜は、抗酸化力が向上し、糖度も高くなるという結果が得らえた。またこのような抗酸化力が高く、糖度が高い野菜は食べてもおいし いという評価も得た。
赤い丸がBLOF理論で栽培されたホウレン草、1位と2位はどちらも露地栽培。露地栽培には負けてしまったが、ハウスで栽培された促成のものでも、抗酸化力は全国平均よりも高かった。
BLOF理論で栽培されたホウレン草と小松菜、実際に50人の人に食べてもらいどれが一番おいしかったか調べたところ、ダントツの1位を獲得。ミネラルたっぷりの野菜はおいしいのだ。
(5)堆肥の効用
堆肥の効果は6つある。
①土壌団粒をつくり土壌の物理性をよくする。(土同士をくっつける接着剤)
②豊富な微生物とそのエサがある。
③有機のチッソを供給する。
④保肥力がある。
⑤ミネラルを可溶化する力がある。(腐植酸)
⑥水溶性炭水化物が地力として働く。
堆肥を施用すると土はフカフカになり、根の張りが良くなる。
良質な堆肥ほど水の溶けやすい。圃場で水に溶けて土と一体化する。
(6)土壌団粒化のメカニズム
堆肥を入れて土壌改良するねらいは、土をフカフカにすることによって、根 量を増やすこと。フカフカの土壌には空気が多くなる。根はミネラルを吸収するとき、酸素呼吸によって生み出されたエネルギーをつかって能動的に吸収してい る。よって酸素の多い土壌は根の伸びがよく、広範囲に根が入り、土中のミネラルにあたる確率も多くなり、吸収量も多くなる。耕運機を使っても、土壌をフカ フカにすることはできるが、そのフカフカを持続させることはできない。
堆肥が土壌をフカフカにするメカニズムは、堆肥に含まれている炭水化物が微生物によって水と炭酸ガスに分解されるときに、個体から液体、液体から気 体へと変化することで、体積が急増することで土の塊を割ってバラバラにしつつ地上へと抜けていく。夜になり気温が下がると、昼間、炭酸ガスが抜けていった 亀裂から空気が入り込んでいき土壌は冷やされ収縮する。昼間は膨張、夜間は収縮。これを繰り返すことで土壌は団粒化していく。団粒化した土壌は、耕運機で 耕してつくった土壌と違い、雨が降っても潰れることがなく、自重で潰れることもない。堆肥でつくったフカフカの土は、炭水化物を微生物が生きるためのエネ ルギー源とするために分解し続け、炭酸ガスを出し続けるので潰れても、膨張して復元することができる。
(7)中熟堆肥の活用
中熟の堆肥とは、堆肥の中に微生物がエネルギー源として使える炭水化物をまだ多く含んだ状態の堆肥のこと。施用後、微生物が炭水化物を分解することで、土中で炭酸ガスをたくさん発生させることができ、土壌を団粒化させる力が強い堆肥といえる。
完熟堆肥では、微生物のエネルギー源となる炭水化物が燃焼しきってしまっていて少ないため、土中で発生する炭酸ガスの量が少なく、よって土壌を団粒化させる力は少ない。
未熟な堆肥は、カビなどの植物のセルロースでできた防御壁を溶かして打つ破るような微生物がまだ多くいる可能性があり、施用後、植物の根が分解されてしまう危険性がある。
(8)中熟堆肥の作り方
①原料のC/N比率を18~27くらいに調整しておく。
②水分50%、pH=6.5に調整、目的の堆肥があれば、その堆肥を原料に混ぜておけば、その堆肥の菌がついて、目的の堆肥に近づけていくことができる。
③発酵は三段階。
1次発酵(7日~10日)常温からゆっくり60℃まで発酵温度を上げていく。カビの仲間、糸状菌によって原料を粗切りしてもらい、また病気の原因となるカビや糸状菌にはすべて発芽してもらい2次発酵の熱で死んでもらう。
2次発酵(30日前後)50~60℃の温度を維持し、納豆菌、放線菌、酵母菌に活躍してもらう。微生物の活動で難溶解性有機物も分解し、ビタミン、酵素、ホルモンなどの生理活性物質が生産される。
3 次は養生発酵(10日~14日)センイシ質を分解してもらい水溶性炭水化物をつくる。温度を40℃~45℃に落として、酵母菌の活動を活発にする。酵母菌 は嫌気状態でも糖をアルコールに分解でき、炭酸ガスを発生させることができる。よって酸素がない地中深くでも、酵母菌が堆肥から溶け出た水溶性炭水化物と いっしょにしみ込んでいけば、団粒化させることができる。
④発酵温度をコントロールしやすくするには、切り返しよりもエアレーションがお勧め。
(9)太陽熱養生処理で病害虫をやっつける
堆 肥、ミネラル肥料、アミノ酸肥料を施肥し耕転し、作付するための畝を立てる。そこに水をしっかりうつ。(水の量は微生物が十分に活動できる水分量50%) そして、透明ビニールで多い。太陽熱を活用して、しっかり養生する。養生する時間は、積算温度で450℃×日。堆肥由来の納豆菌や放線菌で、センチュウな どの土壌中の害虫や根こぶなどの土壌病害菌をやっつけるためには、積算温度で900℃×日必要。納豆菌の出すタンパク分解酵素は根こぶ菌やフザリュウムな どの病原菌を溶かしてしまうことができる。また放線菌は虫の殻のキチン質を溶かす酵素キチナーゼを出すので、虫を退治することができる。納豆菌も放線菌も 高温に強く60℃以上でも生きていられる。逆に病原菌や害虫は60℃以上という温度に耐えられない。雑草の種も焼き殺すことができる。
(10)アミノ酸肥料の利用
アミノ酸態で窒素を施用しても、アミノ酸は微生物によって分解されてアンモ ニアや硝酸などの無機態窒素にならないと植物は吸収しないと、農業の世界では長らく言われてきた。ところが、有機栽培の現場では、アミノ酸は非常によく効 く即効性のある窒素肥料として液肥での利用や葉面散布も行われてきた。科学的検証が、ずいぶん後になってから行われることがある。アミノ酸態窒素を植物が 吸収できるという研究は2002年頃からポツポツと現れはじめている。
植物は動物と一緒に進化してきた高等生物。炭水化物付きの窒素であるアミノ酸態があるのなら、そちらを吸った方が生育に有利になる。
(11)微生物を積極的活用しアミノ酸を腐れないようにする。
ア ミノ酸肥料の施肥のポイントは土中で腐らせないこと。酵母菌など発酵分解を促進する菌を積極的に付けることで腐敗を防止しなければならない。アミノ酸は土 中でアミノ酸の状態のままいられる事は少ない。微生物の優れた栄養源なので、微生物が群がって食べてしまう。土中では微生物の体がアミノ酸の貯蔵庫となっ ている。